現代イスラム研究の第一人者で現代イスラム研究センター理事長を務める宮田律さんが2015年1月28日、日本外国特派員協会にて記者会見を行った。
人質事件は世界の矛盾が凝縮
宮田律氏は湯川遙菜さんがイスラム国によって拘束・殺害され、後藤健二さんがいまなお人質となっている事件の背景について、次のように明言した。
「今回の世界の矛盾が凝縮するような形で現れていると思います。中東イスラム世界の地図を見ますと、イラク戦争を経て、アラブの春を経て、イラク・シリアはずっと戦乱の状態にありますし、北アフリカも紛争のベルト地帯が拡がりつつある。現状や将来に希望を持てない若者が増えている現状から、こういう暴力的な集団が支持を集めて、勢力を拡大しているという印象を持っている。暴力は許されるものではないが、イスラム世界の現状を考えれば、こういう武装集団に入ることによってのみ、生活手段を得ることが出来るという若者たちが少なからずいる。」
つまり、中東・アフリカ諸国の混乱によって、若者が未来に希望を見いだせず、テロリスト集団に加わっているというわけだ。では、どうれば良いのか。
「こういう暴力的な集団の活動を抑制するには、社会や経済の安定を図っていくことが、暴力的にこういう集団を制圧することよりも、先に考えるべきではないかとずっと考えています。」
イスラム諸国の対日感情は良かった
宮田氏は9.11以降のテロとの戦いによって、テロの発生件数は減るどころか増える一方で、軍事による安定は見込めないとの見解を示した。では、日本はどうしたら良いのか。
「私はイスラム諸国のほとんどをまわってきましたが、その経験から言うと、イスラム諸国の日本にたいする感情はとても良かった。日本は第二次世界大戦でアメリカに敗れ、東京五輪を(昭和の時代に)開いたように、めざましい復興を遂げた。アフガニスタンやイラクはなかなか復興できない現状にある。それ故に日本の復興にたいする称賛の思いがイスラム諸国にはある」
宮田氏は日本が米国に追従して、米国主導のテロとの戦いに積極的に参加するのでなく、親日感情を活かして、欧米とイスラム諸国との架け橋になるべきだとの見解を示した。
邦人人質事件を繰り返さないために
また、今回の人質事件について解放交渉が上手くいっていない理由については
「アメリカに遠慮してイスラム原理主義勢力との交渉のパイプを持たず、ハマスやイスラム同胞団と対話してこなかった」「日本の政治家はテロリストという言葉を安易に遣いすぎている。それは彼らを刺激することになる」
と分析した。今後、今回のような人質事件が起こさないためには、
「イスラム国とその支配地域の住民たちの分断をはかることが、長期的にイスラム国の暴力を弱めることになる」「イスラム国の支配下におかれている人々が忘れられている。日本が彼らに何らかの支援をしないと、彼らは今後、イスラム国を支持していくのではないか」
と指摘した。
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